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袖ひぢてむすびし水のこほれるを 春立つけふの風やとくらん



分析
袖ひぢてむすびし水のこほれるを 春立つけふの風やとくらん 分析



解釈
袖ひぢてむすびし水のこほれるを 春立つけふの風やとくらん 解釈

「むしびし 水の」の水が何かによって解釈が大きく変わってくる。
「むすびし」連体形なので水にそのままかかると考えても良いが、
意味としては「むすびし時の水」のようにとるほうが自然。

袖を濡らして水を掬ったということなので、
1.掬われたほうの水、2.掬った手の中の水、3.袖を濡らしている水
の3つが可能性として挙げられる。

これらの水で、凍ってしまえるのは1と3である。
1であれば、季節が変わって水たまりの水が凍ってしまったと解釈できる。
3であれば、冬の季節に水を掬うときにうっかり着物を濡らしてしまい、
そこに冷たい風が吹いてきて凍ってしまったと解釈できる。
着物が凍ってしまうと凍傷になってしまう恐れがあり、冬は命の危険と背中合わせの季節なので、
その袖の水を融かしてくれる春の風は暖かいだけでなく優しい風ととらえられる。



歌意


1.のほうの水とする場合
立春の日に詠んだ歌

(夏に)袖を濡らして掬ったあの水が凍ってしまっているのを、立春の日の今日の風は融かしているだろうか

紀貫之

3.のほうの水とする場合
立春の日に詠んだ歌

(夏の日のように)袖を存分に濡らして水を掬うと、(冬は)凍ってしまい(危険である)けれど、春になった(のだから)今日の風はその凍ってしまった袖の水を融かしてくれるだろうか

紀貫之



感想

僕は3の水のほうの解釈が好きだ。
厳寒の冬の日、服を濡らしてしまうのは非常に危険である。
春の風は凍った服の水を融かしてくれるが、
冬の風は反対に水をたちまちのうちに凍らせてしまう。
春になると、凍傷の事故の危険がなくなるので、安心できて、腹がほっこりゆるむ。
ただ春が来たというだけでなく、安全な季節が来たと喜んで詠んでいることになる。
こちらの解釈のほうが、現実のことを詠んでおり、感情の動きが激しく劇的だと思うからだ。


<追記>2018.07.19
やっぱり3番目の解釈を推したいです


2年ほど前には上記の感想だったのですが、
2年経ってもう一度考えてみたところ、
追加が出たので、追記します。

詞書きを見ると、
「立春の日に詠んだ歌」と書いてありますが、
その他には書かれていません。

紀貫之さんが詠まれた歌ですので、
「○○の泉」とか「○○の滝」とかの情報を付けて
醍醐天皇さんにお渡しするんじゃないかと思うんですよね。

それに、もわ〜っと妄想の泉を詠むというよりは、
具体的な△△のときに訪れた思い出のある泉になると思うし、
(感情を伴った事象を詠むと思うのですよ)
ちゃんと情報を付けた方が、
醍醐天皇さんが「あ〜あれあれ」とか「あの噂の」とか
より情景を楽しめるはずなのです。

そこでやっぱり、
「お庭あるある」
じゃないかと思うんですよね。
つまり3番の方が、本当じゃないかと思うんですよ。

紀貫之さんが京都の「お庭あるある」をテーマに
共通の感情を見い出して詠んでいるのであれば、
醍醐天皇さんのお宅の「お庭あるある」でもあるでしょうから、
お互いに「ですよね〜」「そうだのう」と言って楽しめると思います。
だから、「立春の日に詠んだ歌」という
「時」の情報のみになるんじゃないかと思うんです。

古今和歌集は既に天皇家に献上された和歌を
整理編纂し直した物で、
紀貫之さんは編者の一人でもあります。
古今和歌集は整理する際に、
「天皇のおとがめを受けた人」の名前を消し、
「読み人知らず」としていますが、
整理編纂する際に詞書きなどにも手を加えることができたはずです。
(特に自分の献上した和歌には
書き加えても問題ないのではないかと思います。)

つまり、
紀貫之さんには、
醍醐天皇さんが自分の献上した和歌を
「より楽しめるように」詞書きを付け加え、改良する
セカンドチャンスがあったはず
なのですが、
「凍った水の場所」の情報は書き加えられていません。

ですから、
紀貫之さんは
「凍った水の場所」を書く必要を
全く感じておられていなかったのではないか
と推測できると思います。

なので、
本歌は、やはり「お庭あるある」の1シーンを詠んだ和歌
(3番目の水の解釈)
ではないかと思われます。

省略する言葉を使って31文字にするなど、
技ありの和歌ですし、
細やかな自分の感情に対する気づきのある
心柔らかな和歌だと思いますから、
「紀貫之さんならでは」の和歌だったのかもしれません。



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