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1.流体力学におけるオイラー記述の適応条件についての1意見
2018.02.27 (GMT) uploaded


流体力学ですので、力学、ベクトル関数を学んだ方が
対象となりますが、
そうでない方もお話として読めるのではないかと思います。


目次
1.始めに
2.任意のスカラー量での考察
3.具体的な変数での考察(温度Tの場合)
4.具体的な変数での考察(速度の場合)



1.始めに

流体力学の最初の方に、
流体のある特定の微少な領域を観測点として、
流体の運動などを記述する、オイラー記述があるじゃないですか。

それの運動学的表現である左辺の全微分って
使っていて気分悪くないですか?

「十分小さい領域について考えるので、使えるんですよ」
と言われることが多いんですけれど、
「本当にそうなのかな???」
という疑問がわいたので、
きちんと考えてみました。

2.任意のスカラー量での考察

あるスカラー量(ただの数字)Xの流体の場における表現はX(x,y,z,t)となります。

これの全微分は数学的に
...(*1)
となり、
これは正しいとされています。
(証明はここでは省きます。)

で、これは物理的解釈がなされると正しいのか???

つまり、
変数に役割や性質が付与された状態で正しいのか?
そして、
この世にある現象としてきちんと解釈されるのか?
ということが物理的解釈では大切になると思います。

ここで、
(x,y,z)を空間座標における位置を表す座標とし、
tを時間の変数だとします。
(*1)は
...(*2)
で、
...(*3)
が成り立つことになります。

この全微分の物理的な意味は、
微小時間Δt間の微小変化で考えると、
...(*4)
となります。(gradXは2点間のXの勾配(傾き)を表しています。)
これはどのように解釈したらよいのでしょうか?

微小領域Pを設定します。
とりあえず2次元の図で示します。
という観測領域を設定し、

のように考えます。

つまり、Δt後も、観測領域(target point)の位置は変わらず、
そこにある流体は離れた場所にあった流体です。
(微小時間なので、圧縮量は十分小さく、物がそのままスライドして入ってきているとします。)

(II)の項はΔt時間が経つ前の2点間のXの値の差を表し、
流れてきた流体そのものを観察しているので、
観測領域での値の変化として、正しそうです。
((I)の項が0である、つまり、流体自体に与えられた変化分が0だと思っても同じです。
単に、流れているだけです。
また、(II)の項が0である場合には、場に流れがなく(つまり、静止流体)、
場に一斉にに加えられた変化に合わせて変化しているだけの場になります。)

ここで、(I)の項の意味について考えてみましょう。
Δt後に観測領域で見ているのは最初に離れた場所にあった流体で、
Δt後に、観測領域に初めて入ってきました。
そのような流体を見ています。
しかし、(I)で考えられているのは、
Δtの間に観測領域に加えられた変化量で、
流れ着いた流体に加えられた変化量ではありません。

このままでは、観測領域での時間変化量(*4)の左辺は
何と何の和で表されたものを見ているのでしょうか?
(I)の項があったとき、右辺の和は左辺を表せているのでしょうか?

ここで、よく考えるべきは
僕たちの考えている条件は
十分小さい領域、十分小さい時間間隔Δt

でした。

この十分小さい領域、十分小さい時間間隔Δtとは
何をもって十分小さいとしているのでしょうか?

「流れてくる流体のΔtの間の時間変化量」を考えられているのであれば、
ちゃんと(*4)の左辺は
流れ着いた流体とΔt前にあった流体との差分として考えることができていることになります。

流れてくる流体はΔtの間位置を変えながら、時間的変化を加えられつつ
観測領域にたどり着いています。

なので、(I)で示される観測領域での時間変化分が
その領域の近傍での時間変化分を代表する値
であれば
流れてくる流体に加えられる時間変化量は
観測領域での時間変化分と一致し、
(*4)の左辺は(*4)の右辺の和((I)と(II)の和)で
ちゃんと表されることになります。

図で表すと、


つまり、Δtで加えられる時間変化量の
場所による差の値が十分小さい範囲で、
(結局、Δt間に加えられる積算量が同じになります。)
つまり、共通のの適応される
十分小さい範囲で2点間(その移動経路)のある範囲がその中に入っていれば
(*4)の左辺は(*4)の右辺の和((I)と(II)の和)で
ちゃんと表されることになります。

図で表すと、

となります。

このような条件を満たす小さな領域で考えれば、
(*4)は成立します。
そして、この物理的にオイラー記述の全微分が成り立つ条件として必要とする
の均一な領域はΔtを小さくすれば、
どんどん小さくすることができます。

これは、Δt→0にすると
0に近づける過程で必ず通過する閾値でしょうから、
(この閾値は与えられた流体の場によって異なりますが)
上記のような十分小さいΔtにおいて
(*4)の左辺は流れ着いた流体とΔt前に観測点にあった流体との差分として考えることができている
ことになります。
(圧縮変化もないぐらいの微小なΔtであることも必要です。)

結局、このの距離はΔt→0とすることで、
上記の条件を満たす閾値を確実に通過しますので、
(速度は有限値ですので。)
常にオイラー記述による全微分に対応する物理現象が存在し、
成り立つことになります。

もし、今まで上記のようなことを考えに入れていなかったとしても、
Δt→0で使っていたのであれば、
(*4)の左辺は流れ着いた流体とΔt前にあった流体との差分として
考えることができていたことになります。

結局、このΔt後にこの観測点で観測しているものは
確かに離れた位置にあった流体であると
考えられることになります。

しかし、一応、Δtを無限小にした場合でも、
その前の関係性は保たれつつ無限小にするという操作は行われるので、
しっかり考えてみました。

また、(I)の項は加えられる時間変化量の水平な領域であることが重要でしたが、
(II)の項における勾配、つまり、Xの値そのものの位置変化量はどれだけ大きくても
全く問題ありません。

(II)の項は

と変形できます。(念のため)


3.具体的な変数での考察(温度Tの場合)

次に、任意のスカラー量Xではなく、実際に現実にある変数の場合で考えてみます。
温度T(x,y,z,t)を例に考えてみます。

簡単のため、2次元の流体で考えます。
ただし、この媒質は非圧縮流体で、
水平方向には熱伝導がないけれども、
鉛直方向には十分大きな熱伝導率がある仮想均質媒質とします。
(つまり、鉛直方向にはどんな変化があっても温度が一様であることが保たれる流体です。)

先ほどと同じように、
という観測領域を設定し、

のように考えます。

流体に対して温度変化を与えるために、
この流体の底に熱源である微小なヒーター群(微小領域に1個ずつ)を設定します。
ちなみに、ヒーターは升目いっぱいに広がっているカーペット型を仮定しますので、
鉛直方向のみの熱伝導で以下の議論が成り立ちます。

こんな感じです。


領域の場所によって、熱の加え方が独立に異なり、
Tの時間変化が独立に異なることになります。

先ほどと同じように定点観測的であるオイラー記述をすると、
...(*5)
となります。
ここで、

ので、(I)の時間変化分はヒーターによって供給される熱量qに比例します。
今、鉛直方向を含む熱伝導率の均質な媒質のため、熱量に注目して考えます。

(II)の項は、離れた2点間の温度差です。

(I)の項はこのままでは、 「観測点で流体が
離れた流体が流れてくる間の同時刻のΔtの間、
ヒーターによって温められた分」しか考慮に入れられず、
離れた流体が流れてくる間の同時刻のΔtの間、
離れた流体が温められた分」ではありません。

しかし、先の議論のように、ヒーターによって供給される熱量が少なくともこの2点間(と移動領域)を含む領域で
同じであった場合には、
Δt後にこの場所に来る流体が流れてくる時間Δtの間、
Δt後にこの場所に来る流体が温められた分の熱量と同じ量の熱量が
観測点で流体が同時刻にΔtの間ヒーターによって供給されていると考えられます。

ということになります。

そのため、(*5)の等式は成り立ち、
このΔt後にこの観測点で観測しているものは
確かに離れた場所にあった流体であると
考えられることになります。

なので、の距離で、
場における、熱供給の勾配が十分小さければ、
オイラー記述による全微分に対応する物理現象が存在し、
成り立つことになります。

さらに、このの距離はΔt→0とすることで、
上記の条件を満たす閾値を確実に通過しますので、
常にオイラー記述による全微分に対応する物理現象が存在し、
成り立つことになります。

また、場の温度自体の水平方向の勾配はいくらあっても問題ありません。
(水平方向の勾配がいくらあっても、熱伝導をしない媒質が仮定ですので、
上記の理論は保たれます。)

流体の速度が0の場合は、ヒーターによる温めによる温度変化のみが観測されることになります。


この通る場所のどこでも同じように温められる例を想像するのに、
一様に熱せられるフライパンの上の目玉焼き(十分焼けて固まっている)の
水平移動(滑らせる)が
一点で温められるのと、フライパンの上を滑って別の場所を移動しながら温められても
温められ方(熱の積算量)は同じであるという点において、
良い例かと思われます。
フライパン全体での熱の供給量が同じであるという仮定のため、
Δtは大きくても大丈夫です。
この場合、水平方向には温度分布が均一でしょうから、
水平方向の熱移動はない例として
使えると思います。
(身近な物質で熱伝導率の水平方向成分が0である媒質はあまりなさそうです。)


4.具体的な変数での考察(速度の場合)

ここで、ベクトル量の時間による全微分もできるのですが、
速度の時間による全微分を最初の例として
オイラー記述の全微分を考えるのはお勧めできません。

式としては

となります。

1つ目の理由は(II)の項の演算子に速度が入っていて、原因と結果をきれいに分離しにくいこと。
2つ目の理由は速度を0として、(II)の項による寄与を0にしたいと考えるときに、
(そもそも、(II)の演算子まで0になっていますが)
としないと、
場に0でない速度が生じ、流れが生じてしまうので、
静止流体として考えられないからです。
で、結局全ての項(I)(II)ともに0になってしまって、元も子もありません。


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